美と健康は歯で創られる~令和編~ ⑧

第7回 予防は最大の防御

 インターネットの発展と共に過剰ともいえる情報があふれている昨今ですが、むし歯は誰でもなるとか、歳をとったら歯を失って入れ歯になるものと思っている方が少なくないことに驚きます。生涯自分の歯を保つことは十分可能です。

 紀元前400年以上も前のヒポクラテスの「病気は、環境、食事や生活習慣によるもの」という言葉は正に歯科疾患の予防の大きな鍵です。

 最近の歯科疾患の予防の考え方は、大きく2点に集約されます。「細菌のコントロール」と「力のコントロール」です。

 生まれたての赤ちゃんのお口の中にはむし歯の原因菌も歯周病の原因菌も存在しません。 歯が生えてきて、食物中の糖などが歯に残っており(菌の餌の存在)、かつ、親などからの細菌感染(原因菌の存在)によってバイオフィルムが歯の表面に作られ(菌の住処)、 原因菌が生成する酸が歯を溶かしてむし歯ができます。バイオフィルムがさらに固い歯石となり、細菌がさらに大量に付着しやすくなって、歯周病の原因菌の毒素が急性もしくは慢性の炎症を起こし、歯を支えている周囲の繊維や骨を破壊して歯周病が悪化し、糖尿病等の全身疾患との負の連鎖を作っていきます。

 お口の中の細菌叢のバランスは3歳までにほぼ決まりますので、予防第一弾の目安は3 歳までといわれます。酸蝕症についてお話したときにも触れたように、規律正しい食生活や生活習慣は歯磨きと同等かそれ以上に大事なのはこうした理由によります。 さて、細菌のコントロールですが、物理的に除去するための方法が、日々の「正しい方法」でのお手入れです。基本は毎食後の歯ブラシと就寝前の歯ブラシ後のデンタルフロスです。ワンタフトブラシという、普通の歯ブラシでは磨きにくいところに使用する小さな歯ブラシも便利です。さらに、隙間が空いてしまった方の場合は歯間ブラシが必要な場合もあります。歯磨き剤はフッ化物配合がお勧めですが、お口の状態にあったお手入れ方法はぜひ、歯科医院でチェックなさってくださいね。正しく磨けていない方が圧倒的に多いものです。 

 自分では出来ない歯石やバイオフィルムの除去のためにも予防目的の定期的な受診が歯を健康に保つためにはお勧めです。

 また、力のコントロールも予防のために重要です。子供では、指しゃぶり、唇や舌の癖が歯並びに関係します。大人では、歯ぎしりや噛み締めるくせ、常に歯と歯を噛んだまま でいる癖(TCH:Tooth Contacting Habit) が歯周組織にダメージを与え、歯周病を悪化させる原因と考えられています。リラックスしているときは唇を閉じていても上下の歯と 歯は離れているのが自然な状態なのです。特にPC等を使うデスクワークの多い方はTCHや噛み締め癖にご注意くださいね。

 withコロナの時代の落とし穴

 新しい生活様式で、マスク着用をしてる時間が長くなりました。鼻呼吸はできていますか?マスクが苦しくて、つい口呼吸になっていませんか? 口呼吸はウィルスなどに感染しやすくなります。また、歯並びにも影響してきます。人と話す時間が減ってパソコンやスマホばかり見ていると、無意識につい、歯を噛み締めていたりしませんか? また、唾液の分泌量も減って自浄作用が減少し、お口の中の衛生状態にも影響してきます。

 withコロナの時代、私は患者さんには鼻呼吸をしやすくする「あいうべ体操」(内科医 今井一彰先生考案)をお勧めしています。表情筋含み、お口周りの筋肉をほどよく動かすので健康的で美しいスマイルも作りやすくなりますよ!とても簡単なので、YouTubeなどでぜひチェックしてみてくださいね!

いろいろなメーカーのものがありますので、自分に一番あったものを探してみましょう。

<左から:基本の歯ブラシ、歯間ブラシ、デンタルフロス、 ワンタフトブラシ(2種類)>

*本稿は一般社団法人日本内部監査協会の「月刊 監査研究」2014年4月〜2015年3月号に連載された、ひとみデンタルクリニックの歯科医師、権藤ひとみ著、「美と健康は歯で創られる」を編集、加筆したものです。©Hitomi Gondo