美と健康は歯で創られる~令和編~ ④
第3回 やっぱり怖い歯周病 その1
歯科医療が発展し、予防に関する情報がここかしこに氾濫していると、もう歯科医療が不要になる日も近いのでは、と危うく勘違いしそうになります。ところが、依然として、日本人の成人の8割が歯周病といわれています。そして、日本人が歯を失う原因の第一位(4割)の座に輝いています。
一般的なアメリカ人は子供のころから、定期的に歯科を受診する習慣が根付いています。歯が痛くてあわてて受診するのではなく、最低年に二回、予防目的の「Teeth cleaning & checkup」のために受診します。自分では取り切れないバイオフィルムや歯石を定期的に除去し、口腔内の検診をしてもらうのです。
そのせいでしょうか、私は半世紀を超える人生の中で、歯周病特有の口臭のあるアメリカ人に未だ出会ったことがありません。口臭は自分では気づきにくく、他人が気づいてもなかなか指摘しづらいものです。そこで、歯科医院で歯石やバイオフィルムの除去を一年以上しておらず、自覚症状として歯を磨くと血が出る、口の中がネバネバする場合は、「今すぐ」電話予約をして、受診されることをお勧めします。軽度~中等度の歯周病なら比較的治りも早く、予後も良いのです。
ところが歯がグラグラするところまで行ってしまいますと、歯を支える骨が相当なくなっている重度の歯周病の可能性が高く、抜歯、もしくは手術が必要になったり、処置が終了しても、メインテナンスが複雑になったり、再び悪化するリスクも高まります。
歯が無くなったら、入れ歯にすれば良いというような安易な考えは困ります。入れ歯も定期的に通院してチェックが必要です。また、平均5年で、修理や作り変えが必要というデータがあります。生活の質も下がり、老後の経済的、時間的負担も増えるわけです。同様に歯がなくなったらインプラントをすればよいというのも誤りです。そもそも歯周疾患で相当骨を失っている方にインプラントは最適とはいえません。また、インプラントをした後でも、インプラント周囲炎などを予防するため、やはりメインテナンスのための通院が必要となります。
歯周病の予防と初期治療ですべきことは単純明解です。歯周病の主たる原因は歯に付着した細菌の毒素が歯周組織に炎症を起こし、歯を支える骨の吸収を招くのですから、その原因菌の塊であるバイオフィルムと歯石が付着しにくい環境を保てば良いのです。食生活ではゴボウやセロリなど繊維質の食材も取り入れて、よく噛み、唾液の分泌をうながすことも歯垢をつきにくくします。
比較的歯磨きが上手な方でも歯ブラシのみでは歯垢の7割程度しか除去できませんが、デンタルフロスを併用すれば9割程度除去できるといわれます。それでも残る汚れや歯石は、やはり、歯科医院で定期的に除去してもらってください。あなたのお口の状態に適した正しいケアの仕方も教わってくださいね。
<参考>
「歯周病と全身疾患−歯周病菌が全身を巡ると」
東京医科歯科大学歯科同窓会 2012年発行
「永久歯の抜歯原因調査報告書 2005」8020財団
*本稿は一般社団法人日本内部監査協会の「月刊 監査研究」2014年4月〜2015年3月号に連載された、ひとみデンタルクリニックの歯科医師、権藤ひとみ著、「美と健康は歯で創られる」を編集、加筆したものです。©Hitomi Gondo