美と健康は歯で創られる~令和編~ ③
第2回 知られざる酸蝕症
歯磨き習慣がしっかりしている方々にもよく 観察される落とし穴がいくつかあります。そのひとつが酸蝕症です。
むし歯の場合は、原因菌であるストレプトコッカス・ミュータンス菌等が磨き残しなどの食べかす中にあるショ糖を始めとした発酵性炭水化物を代謝して有機酸を作り、その酸によってエナメル質、続いて象牙質の無機成分が溶けてしまうことにより、歯質に欠損ができてしまいます。一方、酸蝕症というのは、日頃、摂取している食べ物や飲み物そのものに含まれる酸によって歯質が溶けてしまう状態です。酸性の強い食品(黒酢や柑橘類など)の日常的な多量摂取、酸性の強い清涼飲料(コーラ、スポーツ飲料など)の過剰摂取、逆流性食道炎による胃酸、薬(ビタミン剤)などが原因となります。間食が多く、口の中が常に酸性の状態になること、就寝直前の飲食も歯に良くありません。
酸蝕症の症状としては、歯の先端が透明になり、もろく、欠けやすくなる。以前詰めたもののまわりが溶けてしまったために、詰め物と歯の表面に段差ができる、あるいは詰め物がはずれる、エナメル質が溶け出して象牙質が露出し、知覚過敏になって冷たいものがしみる、などがあります。他の多くの病気がそうであるように、酸蝕症も複合されると歯へのダメージはより大きくなります。例えば、酸蝕症とむし歯が並行して進んでいる方、歯軋りの癖がある方、食後すぐに粗い研磨剤入りの歯磨き剤と乱暴な歯磨きの仕方で歯をすり減らしてしまう方などもいらっしゃいます。歯の表面のところどころに小さなクレーター状の凹みがあったり、前歯の先端のエナメル質が磨り減り、象牙質が露出して、スプーンでえぐれたように凹んでいる方、前歯が若いときより短くなってしまっている方、いらっしゃいませんか? 酸蝕症の可能性大です。
お口の中で、歯の表面は脱灰と再石灰化を繰り返しています。飲食の後、唾液の分泌量は増します。お口の中が酸性に傾いても唾液の酸緩衝能によって、酸を中和するイオンが増え、唾液中のカルシウムとリン酸が歯の表面に再沈着するのです。通常、食後30分で食前と同じレベルのpHに戻ります。
あなたの大事な歯のために、酸性の甘い飲料のダラダラ飲みやちびちび飲みは厳禁です。汗ばむ季節でも、のどが渇いたらできるだけお水をお飲みくださいね。
ところで、うれしいことに、日本の伝統的な食べ物や調味料はエナメル質が溶ける臨界pH5.5付近のものが多いそうです。まずは汁物、そして、一皿に偏ることなく、いろいろなおかずを満遍なく、少しずついただくという和食のマナーは、実は歯に優しいお食事のいただき方でもあります。お食事の最後の緑茶には歯を丈夫にするフッ素まで入っています。日本食を誇りに思いましょう!
<参考>
1 .「酸性食品と酸蝕症−食品中の強い酸が歯を溶かす」東京医科歯科大学歯科同窓会 2012年発行
2 .「Functional Occlusion: From TMJ to Smile Design」 Peter E. Dawson, Mosby, Inc. 2007年発行
*本稿は一般社団法人日本内部監査協会の「月刊 監査研究」2014年4月〜2015年3月号に連載された、ひとみデンタルクリニックの歯科医師、権藤ひとみ著、「美と健康は歯で創られる」を編集、加筆したものです。©Hitomi Gondo
(次号に続く)