美と健康は歯で創られる~令和編~ ⑤

第4回 やっぱり怖い歯周病 その2

 さて、ここからは歯周病が全身疾患との関係にもたらす負の連鎖をご紹介していきましょう。糖尿病、肺炎、心疾患、認知症、低体重児、骨粗しょう症などとの関係がよく紹介されています。歯周病は原因菌への抵抗力に左右されますから、当然、免疫力が弱まると悪化します。糖尿病は免疫力を低下させますので、それが歯周病を悪化させます。また、歯周病による炎症性因子がインシュリンの作用を阻害するため、糖尿病にかかりやすく、かつその進行を速めると考えられています。
「誤嚥性肺炎」という言葉はご存知ですか?入院中もしくは介護施設などに入所中の高齢者・寝たきりの方などが身近にいらっしゃると、聞いたことがあるかもしれません。健康な人は唾液や食物を飲み込むこと(嚥下機能)に不自由はありません。脳の機能が衰えると飲み込むときに食道に食物をうまく流し込むことができず、気道に唾液や食物が流れ込んで肺に炎症を起こしてしまうのです。歯周病菌を含むお口の中の細菌は誤嚥性肺炎の重大な原因の一つと考えられています。
 他の感染症と同じように、歯周病菌に感染するということは、すなわち、菌が血液の中に入ってあちこちで悪さをするということになります。心臓の内膜に付着すれば心内膜炎を引き起こすことがあり、血管に付着すれば動脈硬化を引き起こし、狭心症や心筋梗塞など心疾患のリスクを高めることが明らかになりつつあります。高齢者でも残存歯数(残っている歯の数)の数が少ないほど、脳の委縮(アルツハイマー型認知症)が進んでいた、また、脳血管性の認知症の人が多いという報告もあります。脳に障害が起これば、飲み込むための機能が衰え、誤嚥性肺炎のリスクは高まります。
 自治体などで妊婦さん向けの歯周病検査を提供しているところは多いと思います。例えば、東京都文京区は歯科医師会事業を通じて無料で提供しています。妊婦さんの歯周病は低体重児出産や早産のリスクを高めることが知られています。歯周病菌が胎盤や子宮に感染し、子宮の収縮に関わる炎症性物質が影響するためと考えられています。
 歯はその周りにある歯槽骨という骨で支えられていますが、骨粗しょう症の方が歯周病になると歯槽骨の吸収が速く進み、歯を失うリスクは高まります。歯を失うことで、良く噛めず、骨を再生するための栄養バランスもくずれ、さらに歯周病を悪化させるという負の連鎖を招いてしまいます。
 こんなに怖い歯周病ですが、その原因は歯周病菌そのものだけではなく、喫煙、ストレス、不適切な力のコントロール(歯ぎしり、噛み締めの癖、ほか)等いろいろな要因がわかっておりますから、あとは手を討つのみです。

 予防をしっかり、万全にして、歯周病フリーの健康長寿を目指しましょう!

歯周ポケットの深さは2mm以下が望ましい。

<参考>
 「歯周病と全身疾患−歯周病菌が全身を巡ると」
東京医科歯科大学歯科同窓会 2012年発行

*本稿は一般社団法人日本内部監査協会の「月刊 監査研究」2014年4月〜2015年3月号に連載された、ひとみデンタルクリニックの歯科医師、権藤ひとみ著、「美と健康は歯で創られる」を編集、加筆したものです。©Hitomi Gondo